奈落の底に落ちるはるか前、ダンテは最愛の人、ベアトリーチェと結婚した。
しかし、婚姻の前にダンテは十字軍に徴集される。
出発の前日、ベアトリーチェは式を挙げていないにもかかわらず、
ダンテとの契りを結ぶことに同意する。
ダンテが彼女の十字架にかけて永遠の愛を誓うならば、という条件をつけて。
ダンテは誠実を誓い、ふたりは一夜をともにした。
次の日、ベアトリーチェは別れの贈り物として
自分の十字架をダンテに渡したのだった。
従軍中、ダンテと仲間の兵士たちは、司教から祝福の言葉を授かる。
この先どのような罪を犯そうともすべて許されるであろう……。
この言葉を胸に、ダンテは神の名の下に極悪非道のおこないを繰り返す。
ところがダンテが任務を終えて故郷に戻ったとき、
父と愛するベアトリーチェは殺されていた。
そこへベアトリーチェの魂が現れたものの、すぐに地獄へ連れ去られてしまう。
ダンテは一瞬たりともためらうことなく、
ベアトリーチェを追って奈落の底へと落ちていくのだった。
生前、ベアトリーチェは清らかで誠実な女性であった。
彼女が犯した唯一の罪は、正式に結婚する前にダンテと一夜をともにしたことのみ。
しかしそれは、ダンテが彼女の十字架にかけて
真実の愛を誓ったからに他ならない。
死後の世界でベアトリーチェは囚われの身となっている。
地獄の奥底に連れ去られ、そこで愛するものの救いを待っているのだ。
ローマ時代最高の詩人と称えられたウェルギリウスは、辺獄にいた。
キリストが復活する前に死んだ偉大な詩人や哲学者のひとりとして、
彼もまた洗礼を受けられず、救い主を受け入れるチャンスも与えられなかったのだ。
しかし、ベアトリーチェの代わりとしてウェルギリウスは辺獄を去り、
地獄を行くダンテの道案内をつとめる。
彼の助けがなければ、ダンテは闇の世界を進むことができないのだ。
ベアトリーチェの弟で、ダンテの親友。
彼はダンテとともに十字軍に加わり、勇敢に戦った。
ただし、ダンテとフランチェスコには大きな違いがあった。
彼はダンテよりもはるかに気高く純粋だったのだ。
彼が十字軍に参加した目的はただひとつ、聖都エルサレムの奪還のみ。
ダンテは戦いにおもむく前、
ベアトリーチェからフランチェスコのことを頼むと懇願されていたのだった。
ダンテの父、アリギエーロは、フィレンツェにあるダンテの屋敷で
ダンテやベアトリーチェと一緒に暮らしていた。
ダンテが十字軍に参加してからは、屋敷に残ってベアトリーチェを守る日々。
しかしダンテが戻ったとき、ふたりは殺されていたのだった。
アリギエーロの妻でダンテの母、ベッラはダンテが幼い頃に亡くなった。
ダンテは父から、母は熱病のため心臓が弱くなって亡くなったと聞かされている。
ダンテに母ベッラの記憶はほとんど無いが、母への思いは永遠に消えないのだった。
死はすべての魂に平等に訪れる。
ベアトリーチェのもとへと急ぐダンテのもとにも死神がやってくる。
彼は傍らに携えた大鎌で生者の魂を刈り取るのだった。
地獄に落とされたカロンに課せられた仕事とは、
アケローン川の渡し守として小船に亡者を乗せ、辺獄へ運ぶこと。
長いときを経る間にカロンの身体は小船とひとつになり、
今では舳先についた頭だけがかつての姿をとどめている。
辺獄の奥にある大法廷に陣取ったミノス王は、そこで亡者の魂を審判する。
最後の審判を受けた亡者たちは、罪にふさわしい場所に送られる。
盲目にもかかわらず、ミノス王はタコやイカのような触手を伸ばして亡者の魂をつかみ、
残された触覚で彼らの罪を読み取ることができる。
審判を下された魂は、棘だらけの恐ろしい車輪に投げつけられ、
もがき苦しみながら最後の目的地まで運ばれるのだ。
大天使の長だったルシファーは、かつて天使として神とともに天国に暮らしていた。
しかし、やがて自らの美貌と地位を鼻にかけ、おごり高ぶるようになってしまう。
神が人間をつくったとき、ルシファーは地上を見守るように命じられる。
そこで彼は、人間に対する神の愛を目の当たりにし、嫉妬する。
ルシファーはもはやこれ以上神に仕えることはできないと考え、
神に勝る力を手に入れ、神をしのぐ存在になることを決心する。
そして自らに追随する天使を率いて、神と神に使える天使たちに戦いを挑んだのだった。
神との戦いに敗れたルシファーは、仲間の天使とともに天国を追われ、地獄へと落とされた。
ルシファーは今、地獄の最も奥深い圏の中でダンテが来るのを待っている。